最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)342号 判決 1970年7月16日
上告人
藤村多次郎
代理人
吉田賢雄
復代理人
畑山尚三
被上告人
石川勇人
主文
原判決を棄却する。
本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人吉田賢雄の上告理由第一点について。
原審の認定した事実は、次のとおりである。すなわち、上告人は、昭和二五年七月二〇日訴外小田島芳男外一名を連帯債務者として、金一六万五〇〇〇円を弁済期同年九月二〇日、利息月三分の約定で貸与し、これとともに同訴外人から右債権を担保するため同人所有の本件建物につき抵当権の設定を受け、昭和三四年二月一〇日仮登記仮処分決定をえて、右抵当権設定の仮登記を経由した。上告人は、これより先、昭和三〇年六月二三日、同訴外人に対する右貸金債権を被保全債権とし、本件建物に対する仮差押決定をえて、その登記を経たが、同訴外人は、昭和三七月六月三〇日、仮差押解放金二〇万円を供託し、右仮差押執行の取消決定をえて、その頃右仮差押登記の抹消登記を経由した。そして、上告人は、右仮差押の本案訴訟である本件貸金の支払を求める訴訟において、上告人勝訴の確定判決をえたので、これを債務名義として、昭和三八年一月二四日、同訴外人の有する前記仮差押解放金の取戻請求権(以下本件供託金返還請求権という。)につき債権差押および転付命令をえた。ところが、これに先だち、被上告人が、同訴外人に対する貸金一〇〇万円の強制執行として、昭和三七年七月三日、本件供託金返還請求権につき債権差押および転付命令をえていたため、右仮差押解放金につき配当手続が開始され、配当裁判所は、上告人および被上告人が同訴外人に対して有する前記各貸金債権を平等の順位にあるものとして、第一審判決添付第一表記載のような配当表を作成するに至つた、というのである。
右事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人のえた差押命令は競合しており、従つて両者のえた転付命令は、いずれもその効力を有しないというべきところ、本件供託金返還請求権は、本件仮差押の目的である本件抵当建物に代わるものであるから、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、上告人の有する本件抵当権は、本件供託金返還請求権にその効力を及ぼすといわなければならない。もつとも、右抵当権は、仮登記を経たにとどまり、本登記を経ていなかつたのであるが、仮登記がなされた場合においては、仮登記の順位において第三者に優先する効力を認められるのであるから、配当裁判所は、配当に際し、仮登記を有するにすぎない抵当権についても、その順位に応じた配当額を定め、民訴法六三〇条三項の規定を類推して、その金額を供託すべく、右抵当権者において、後月、本登記手続をなすにつき必要な条件を備えるに至つたときに、同人にこれを交付すべきである(大審院大正一五年(オ)第六六一号、昭和二年五月二六日判決、民集六巻二九一頁参照)。本件においては、上告人は、かねて同訴外人を相手方として本件建物につき前記仮登記に基づく抵当権設定の本登記手続を訴求していたところ、上告人勝訴の判決をえ、これが昭和三八年八月四日確定したことを原審が認定しているのであるから、上告人は、右判決の確定により、右抵当権につき本登記手続をなすに必要な条件を備えるに至つたものというべく、したがつて、本件抵当権の順位に応じた配当金の交付を受ける権利を有するに至つたものである。
そして、上告人は、同訴外人の仮差押解放金の供託により、当初、本件建物に対し抵当権を有するとともに、本件供託金返還請求権に対しても右抵当権と同様の優先権を取得するに至つたのであるが、このような場合においては、上告人は、本件建物に対し抵当権を実行するか、本件供託金返還請求権に対する執行に際し右優先権を主張するか、いずれか一方を選択して行使することができるものというべきである。もつとも、本件においては、本件建物は昭和三七年七月二四日までに滅失していることを原審が認めているのであるから、右滅失後においては、上告人が右建物に対する抵当権を実行することはできないのであるが、右建物に対する抵当権実行が可能な場合においても、上告人は本件供託金返還請求権に対する執行に際し前記優先権を選択行使することができるのである。上告人が、本件配当手続において前記の優先権を主張したことは、記録上窺うことができないものではなく(甲一三号証参照)、もしそうであるとすれば、配当裁判所は、右優先権に応じた順位によつて、配当表を作成すべきであつたものといわなければならない。しかるに、原審は、上告人が本件供託金返還請求権に対し優先権を有しないことを前提として作成された本件配当表を正当として是認したのであるから、原判決には、この点において法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、論旨は理由があり、その他の上告理由につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、本件配当に際し何人にいかなる数額の支払をなすべきかを定めるにつき更に審理を尽くさせるため、本件を仙台高等裁判所に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)